色の話

僕には生まれてから一緒にいる、同い年の幼馴染が二人、いる。

 

 

一人は女の子。

幼い男の子なんて簡単なもので、僕は幼稚園に通っている頃、その子のことが好きだった(らしい)。

お母さんに「僕、大きくなったら〇〇ちゃんと結婚するんだよね?」と聞いていた(らしい)。

まあ当時の彼女は、おしっこを漏らして真っ裸で園内を走り回っていたわけだけど。

 

強気な女の子で、僕たち兄弟三人も、幼馴染の他の男の子二人も、その子に翻弄されっぱなしだった。

大学生の頃、彼氏がいなくなったからとお酒の席で「え、ともくん私と付き合わない?ママもパパも絶対喜ぶよ?」と言われ、それが不必要に、しかし非常に僕の頭を悩ませた。

深夜お酒を飲みながら、どうすれば良いのかと友人と話した末、「お前一度くらいデート行ってこいよ!」となり、意を決して「デートしよっか」とラインをした。

そうしたらこれまた酷い話で、突然ラインが返ってこなくなってしまった。

聞けばその二週間後に、彼氏が出来たらしい。

特に好きだったわけではないけれど、何だかやるせない気持ちになったのを覚えている。

 

 

もう一人は、男の子。

絵とピアノがものすごく上手で、小さな喫茶店でたまに個展を開いたりしているらしい。

今は仕事を始めたのでめったに聞かなくなっているが、学校帰りに、自分の住む団地の、すぐ下の部屋から、ピアノを弾く音がよく聴こえていた。

 

本当に綺麗な絵を描く子だった。

 

それは、彼の風景画を見ていた時の事だった。

一緒に見ていた先生が、「彼には山の緑が、こんなにもたくさんの色に見えているんだね。」と言った。

なるほど、確かに葉っぱの色が一種類ではない。

黄色っぽい色から深緑まで、様々な色で塗りあげられている。

風景を見た時に、それを表現すべく色の種類を自分の中で抽出する作業が、きっと僕には出来ないだろう。

 

 

 

ところで色と言えば、女性と買い物に出かけた時に、似たような洋服を両手に持って現れることが、よくある。

そうして彼女達は、僕らにこう聞くわけだ。

「ねえ、どっちがいいと思う?」

どう見ても似たような形をしている。色もそっくりだ。

一概にどちらが良いと、はっきり言えなくて困る。

そうして迷っている内に彼女の機嫌はどんどん悪くなっていく…。

僕も「真面目に考えて」と怒られたことが何度もある。

決して適当でいいと思っているわけではないのに。

 

そもそも、女性は男性に比べて、生物学的に、色を認識する能力に長けているのだ。

詳しくは割愛するけれど、男性ホルモンの働きによって、我々男性は女性よりも優れた動体視力を手にいれる代わりに、色覚能力において、劣っている。と、言われている。

また、色を認識するための錐体細胞を、多くの人は3つ持っていて、それら3つの細胞が、各々担当している色の認識を行なっている(ざっくり、赤系担当、青系担当、緑系担当、といったように)のだけれど、男性のうち20人に1人は、その細胞が2つしかない。

細胞が少ないという事は、あるはずだった細胞の、担当している色の認識が難しくなる。

つまり、認識出来る色の種類が他の人よりも少ない。例えば、赤と緑の区別がつかなかったりする。

女性でこの色覚異常が発生する確率は、男性のさらに25分の1程度だ。

しかも、女性のうちざっくり9人に1人は、この錐体細胞を4つ持っているらしい。

4つ持っていると、今度は認識出来る色の種類が極端に増える。

一説によると、潜在的には一億種類以上の色を認識することが出来るようになるらしい。

 

 

少し長くなってしまった。

要するに、遺伝子レベルで男性と女性では、見えている世界がそもそも違うのだ。

洋服の色の違いを完璧に共有するなんてことは土台無理な話だし、あの日デートに誘った僕に対して、幼馴染の女の子にどんな感情の動きがあったかなんて、到底分かるはずもない。