喫煙

このブログ、基本的に女性とお酒のことしか書いていない気がする。

ならば今日書くのはタバコについてだ。

酒、女、と来たら、タバコしかないだろう。


ある日旅行中に、喫煙所で友達から突然

「原くんって何でタバコ吸うの?」

と聞かれた。

清水くんという、とても温厚な男の子だ。

よくカフェのシフト終わりに、終電を飛ばしてお酒を飲み、カラオケオールをしていた。

ちなみに彼も愛煙家で、メビウススーパーライトを吸っていた。

「え、美味しいから。」

僕がそう答えると、清水くんはぽけーっとした顔でこちらを眺めていた。

「ほんとは、『美味しいから』って理由でタバコを吸う人はいないっていう話をしようとしてたんだ…。」

悲しそうな清水くん。実に愛らしい。

オチを潰してしまったらしい。


ところで、吸う理由は前述の通り、美味しいから、言い方を変えれば、味や香りが好きだからなのだけれど、せっかくなので吸い始めたきっかけなど書こうと思う。

 

 

大学生の頃、僕には付き合っている彼女がいた。

また女か、と思われるかもしれないけれど、安心してほしい。

まだこのブログには一度も登場していない女だ(最低)。

 

この彼女、かなり強気で。

そもそも気になったきっかけが、アルバイト先で僕が大きな失敗をして落ち込み、一瞬客席から後ろ、厨房を振り返った際に「お前情けねえ顔してんじゃねえ」と鳩尾に拳を一発頂いたことからだった。

あれは、非常に痛かった。


同い歳だがとても落ち着いていて、人当たりも非常に良く、皆に愛されていた。

何となくバイト終わりに飲みに行くようになり、何となく休日一緒に買い物に行くようになり、何となく、バイトが無い日もご飯に行くようになった。


僕がサークルの飲み会に行った日のこと。

「世界一周するぞ!」と言う謎の意気込みと共に、世界のビールが置いてあると売り出した居酒屋に僕らはいた。

また酒かと(中略)、はい、お酒です。


件の彼女は、大学も違えば当然サークルも違っていたため、その場にはいなかった。

いやしかし、早々に酔っ払った僕は浮ついた頭で二つ、その後の行動を決めた。

1.一次会で帰る。

2.例の彼女に会う。

幸運にも飲み会の場所は、彼女の住む最寄り駅だった。

完全にアルコールに侵された頭のまま、僕は彼女にLINEを送った。

「ごはんいきましょ」

食えるか!!!ビールでお腹パンパンだわ!


いやしかし幸運にも何故かその後会うことになった。

しかも、向こうもご飯を食べてしまったために、一緒に帰るだけ。

中学生か。

もう随分昔の話なので、会話の内容などほとんど覚えていない。

会うと決めた瞬間からお酒をボイコットし、水ばかり飲んで酔い醒ましをしていたので、そこまで支離滅裂ではなかったはずだ。


いや、まあ、最後の一手以外は。


僕が帰るための駅と、彼女の家は近かった。

よって、駅まで送っていくよ、と彼女から言われて集まった僕らは、駅の入り口の前でバイバイをした。

そこで、自転車のスタンドを立てて手を振る彼女を見て、酔っ払った僕は、彼女をうっかり抱き締めてしまった。


無言で去る。

地下鉄へと続く階段を降りながら、頭の中はパニックだった。

いや待て俺今何した!?

即刻LINEを開き、謝罪文を打ち込む。

「ええよー、こっちもあんたの顔赤いの移ったけんね笑」

バリバリの関東圏民である彼女が、謎のエセ関西弁で返してきた。

可愛すぎるだろ。


ひえええええとなりながら、僕は友達に相談の電話をかけるなどした。


この事件のあと、一週間後くらいに一緒にラーメン屋に行ったのだけれど、その時のギクシャク感といったら無かった。

しかし何とかそれからさらに二週間ほどかけてデートに漕ぎ付き、そして僕らは付き合うことになった。

 

 

付き合って半年ほど経った頃、僕らは結構重ための喧嘩をしていた。

きっかけが何だったのか、もう覚えていない。

その日もひとしきり電話で言い争いをした後、何だかどうしようもない気持ちになった僕は、近くにあったコンビニに立ち寄った。

そこで、ライターと、当時父親が吸っていたメビウススーパーライトをひとつ、購入した。


こうなったらタバコでも吸ってやる。

何てしょうもない。

いやしかし、この時の一服は僕にとってかなり大きな事件であり、そして失敗であった。

格好つけて一本口に咥え、息を軽く吸い込みながら火をつける。

そこからどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

何だかモヤモヤが口の中に入り込むばかりで、味も香りも、吸っている感覚もよく分からない。

そうこうしてる内に一箱終わってしまった。

僕はしぶしぶコンビニに戻って、一箱追加した。

そして、観念してインターネットで吸い方を調べ、やっとこさ初めての喫煙を体験したのだった。

肺に入れるとかさ、普通わかんないよそんなの。


こうして僕は周りにひた隠しにしながらタバコデビューを果たした。

ちなみに彼女とはこの後一ヶ月するかしないかの内に別れてしまった。


それから色々な銘柄のタバコを吸った。

セブンスター、メビウスマルボロラッキーストライク、ピース、ホープ、ハイライト、ラーク、クール、パラダイス…。

お金が本当になくてエコーやわかばを吸っていた時期もあったけれど、二度と吸わないだろう。

何だかんだ今はアメスピに落ち着いているけれど、気分によって違う銘柄を買う時もある。

メンソールだったらセブンスターが好き、などと季節によって変えることもしばしばだ。


タバコの味や香りが好きなのはもちろんのこと、お酒を飲む時に、一杯終えた後にタバコを一本と、お水をひと口飲むことで口の中をリセットするのにも重宝している。

僕はタバコが好きなのだ。

 

 

ところで件の彼女と別れる際に、彼女のカバンからチラリと顔を覗かせるものがあった。

メビウスのオプション8だった。

「親のを持ってきた」と言っていたけれど、彼女もまたいつの間にか喫煙者になっていたのだ。


あの時僕は振られた側だったけれど、最後に二人で吸った一本が、何だかとても美味しかったような気がした。