ものおじ
今日で京都に来て一週間が経った。
景色は毎日変わらず緑色で、日中はうだるように暑く、日が落ちた後は嘘のように涼しい。
日が出てる間は概ね勤務先の旅館にいるため、そこまで暑さが気にならないが、今日みたいに早く終わってしまった日は、寮の近くの喫茶店で扇風機の風を浴びながらアイスコーヒーを啜るしかない。
内装が木で固められていて、グラスが綺麗なので割と気に入っている。
まだ来たの2回目だけど。
ところで、田舎の長閑な雰囲気と、夜毎訪れる大量の虫との戦いの日々にすっかり忘れてしまっていたのだけれど、僕はこう見えて飲食店が結構好きで。
特にカフェや喫茶店が好きなので、昔はよく都内のカフェを巡ったりしていた。
もちろん働くのも好きで、それが転じてお店を作るなんて話も、少しではあったが貰う事もあった。
昔働いていたカフェの、また通っていた大学の先輩に、「靴下のお直し」が趣味の人がいた。
地方創生や、それ以外の染物などの文化についても興味があるとのことで、最近また新しくカフェをオープンしたとか何とか。
ハキハキとしていてまた、独特な人だ。初対面で「わたしこの子嫌いやわあ」と言われたのを未だに覚えている。
一時期「カフェを作らないか」と言う話を先輩に貰って、一緒に物件を見て回ったりしていた。
その時も確かそこそこに暑い時期だったので、道中近くの喫茶店に寄る事にした。
「自家焙煎」が売りの店らしい。
ふむ。
…余談だが、この薄い内容の割に読みづらいブログを、わざわざ読んで頂いている皆様の今後のコーヒー生活のために一つアドバイスを申し上げておくと、「自家焙煎が売りの店」のコーヒーはあまり美味しくないことが多い。
避けるが吉。
話を戻すと、お店はカウンター席のみで、後ろの棚に持ち帰り用のコーヒー豆が、たくさん置いてあった。
暗記物が不得意で、かつあまり嫌いなものがない僕は素直にブレンドを頼む事にした。
先輩は何か別の物を頼んでいた。
こう言う店に来た時に一つ決めている事がある。
僕はその昔バーに行くのも結構好きで、つまりカウンター越しに店主と話す機会が多かった。
カウンターの向こうとこちらでは大きな違いがある。
それは何かと言えば、向こうはプロでこちらはお客さん、つまり素人だ。
何て当たり前のことを書くんだまたこいつはと思うかもしれないが、意外と皆忘れがちで、しかも結構大切な事なのだ。
素人たる我々は、あまり中途半端な知識をひけらかさずに、分からないことは素直に聞いた方が楽しい。
向こう側の人々も、余程のことがない限り、快く色々な事を教えてくれる。
しかも、上手くいくと店の奥の方から普段は出さないちょっといいボトルが出て来たりする。
その日も僕は、コーヒー豆の産地と味の違いについてだったり、ブレンドの内容について色々と質問していた。
コーヒー豆が運ばれてくる麻袋の使い道まで色々な話を聞いていたと思う。
麻布のトートバッグが豆と一緒に売られていて、気になっちゃったんだよね。
そうしたら、しばらく黙って僕らの会話を聞いていた先輩が、突然僕に向かって
「あんた本当に物怖じしないね。」
と言ったのだ。
(……物怖じ?)
とすっかり頭の中が「?」マークだらけになってしまった。
いや言葉の意味が分からなかったのではなく、その言葉は今の状況にそぐわない気がしたのだ。
僕は元来、「怒られる事」や「謝る事」、「分からない事を分からないと言うこと」がとてつもなく苦手な人間だ。
つまりはっきりしない人間なんだと思う。
しかも前の二つについては自分が怒ったり、謝られたりする事も苦手なので非常に困る。
怒っている人を見ると酷く不安定な気持ちになるし、自分の非を認めることはとても体力のいる事だと思う。
ただ、20数年も生きているとさすがに気付く。
これが出来ないやつは、結構ヤバい。
最悪、相手との関係を永遠に失う可能性がある。
その事を、人と関わることで、少しずつ学んできた。と思う。
おかげさまで前述の「カウンターに座るお店」を楽しむことが今は出来ていて、とても嬉しい。
人から学んだはずの物事について、また別の人から珍しがられることになるなんて、自分のものに出来たということなんだろうか。
あの時の驚きを、しばらく忘れられそうにない。