初めての終わり
どんなアイドルにも、終わりは必ず訪れる。
僕にとって、初めてのその日は、突然訪れた。
秋葉原ディアステージで行われた千影みみさんの2周年イベントの時のことだ。
その時もちょうど、「何で推しているのかわからない」時期に突入したままイベント当日を迎えていた。
しかし千影みみさんのジャックライブを見ていて、やはりそのライブは圧巻で、「ここにいてもいい」と言われているようだった。
この子を推し続けよう。
僕の目からは、自然と涙がこぼれ落ちていた。
しかし曲中、ふと気付く。
違う、これは。
これは、別れの挨拶だ。
涙がもう、止まらなかった。
今なら分かるんだけど、あれは完全に、卒業間際の、いわゆる、ファイナルモードのそれだった。
曲が終わり、ライブ中のMCの時間が始まる。
ああ、いやだ。
お願いだから、それを言わないでくれ。
しかし、願いも虚しく、彼女の口から、翌月卒業をすると、発表があった。
フロアに僕の嗚咽が響いていたのだけ、何となく覚えている。
そして始まる「Fly / BiS」
初めて聴く曲なのに、あのイントロは本当に最高だと思う。
泣き崩れて折れ曲がった僕の身体は、曲の力強さに押されてゆっくりと持ち上がった。
しかしサビでオタ芸を打とうにも、やはり涙は止まらず、どうしても打つことが出来なかった。
あんなに頑張って覚えたオタ芸も、MIXも、もう何の意味も持っていなかった。
続いて「僕の気になるあの娘の新曲は少し残念だった」が始まり、そして終わった。
ライブの終わりと共に、僕は完全に泣き崩れていた。
その後、ステージ上でツーショットチェキ会が始まると言うのに、僕はステージに座り込んで呆然としていた。
仲良しのオタクが、「ここにいちゃダメだ」と僕を外に連れ出してくれた。
僕はいつ拾ったのか分からない、自分のジャケットを握りしめたまま、店の前の、秋葉原の路上で泣き伏せていた。
その後僕は、ひと月ディアステージに通い、千影みみさんの卒業を、僕にとって初めての推しメンの卒業を体験した。
二日間に渡って行われた卒業ライブも、やはり最高だった。
印象的なエピソードがある。
それは、卒業後、オタクの友達と二人、中華屋でお酒を飲んでいた時の事だ。
「君さ、オタクやめるの?」
問いかける彼は、僕をディアステージに初めて連れていってくれた友達だった。
会う度色々なアイドルの話をし、時には彼の選んだライブに一緒に行き、、そして月に一度程度は朝までとことん飲む、そういった生活はとても楽しかった。
「いや、やめないよ。」
「そうか。」
彼は満足した様子も、安堵した様子も、もちろん怒る様子も特に無く、グラスを口に運んだ。
質問の真意は未だに分かっていないのだけれど、この時にようやく、僕はアイドルオタクになった気がする。
最初はただの好奇心だった。
自分の知らない世界を知ってみたい、そう思って僕はディアステージのあの重い扉を開けたし、フロアを少しずつ上に昇り、またライブの景色が変わることを期待してオタ芸などを覚えた。
それが一年経って、推しメンの卒業を体験した時に、自分の知っている世界がまだまだ狭いという事を学んだ。
だってほら、推しメンが卒業した僕は明日、どこの現場に行けばいいのか、今後何を見てみたいのか、全然分からない。
アイドルを自分で見てみたい。
今度は自分で、自分の好きな現場を選んでみたい。
そんな気持ちが奥の方で、ふつふつとしているのを何となく感じた。
正直今でも全然見れてないんだけれど、卒業はとても辛く悲しかったけれど、それでも、この時に卒業を体験出来て良かったのかなって、ちょっとだけ、思うんですよね。